Heaven from 3cm above
2000年03月08日
子犬の気持ち

心がキュイーンと鼻鳴らす時がある。その時、私は子犬の気持ちになっている。
しっぽや耳は引力と仲良くなり、小腹もきっとすいている。

見えない鎖にがんじがらめになっていたり。首輪さえ外れてしまって、
見知らぬ場所に宙ぶらりんに彷徨っていることに気付いてしまったりした時に。
好きな人が目の前にいるのにここにいなかったり、
嘘をついていることが見えてしまう時に。

そんなことはいつも忘れて、あちこちで春が生まれている街を歩いている。
でも、時間が止まるように子犬の気持ちエリアに立ち止まってしまうことがある。

それは銀行の前であることが多い。スーパーや文房具店、喫茶店だったりもする。
ほどよい鉄柱に鎖をつながれ、ご主人様を待ち続けている犬。
小型犬でも大型犬でもなんだか小さく身をかがめて、ただひたすらに待っている。
ご主人様を。
何ができる?待つことだ。無駄なエネルギーを使うことなく、
呼吸さえ密やかに、犬は待っている。
鎖をほどこうなんて夢にも思わず。

きっと帰ってくる。小一時間で。見知らぬ人に「かわいー」ってかけよられたら、
ちっとは愛嬌も振りまくけれど、
全身で「おかえり!」って飛びつきたいのはやっぱりご主人様なのだ。
もし夜になってもご主人様が帰ってこなかったら,その時は、鎖を噛み切ってでも探しに行くだろう。
ま、そんなことはないけど。
今日のばんごはん、なんだろう。

犬の寿命は、人間の六分の一くらいだ。たいてい、犬のほうが先に逝く。
その運命を知っていて、人は犬と共に生きている。
犬は時間軸の違いなど考えることもなく、ただご主人様と遊んだり、日溜まりで眠ったり、発情したり、
ウォンウォン吠えたりの毎日をただ、生きる。
よけいなことを取り除いて、愛に服従する日々よ。

言葉なんていらないのです。

そんな、楽園。

舎長 明神慈