2001年11月04日
私の右足はリズムを大きく崩すときがある。
突然大きく踏み出してしまうのだ。
よく、階段の昇り降りでガクッと身体が宙を舞うことがある。
それは流れている時間が逆流するうねりのようでとても恐ろしい瞬間だ。
右足は階段を一段ぬかしてしまうほどに空を切ってしまう。
無意識のときに、それはよく起こる。
死と直結していることも、知っている。
たぶん、別人格が潜んでいる。この、右足に。
身体はひとつしかないのに、足は二本あるから。
先へ先へ行こうとする右足。
今の自分を支えるよりも、その先へ行こうとするこの足。
生き急ぎたいこの足。
その先にあるのは、究極は到達点のない欲望と、死だ。
いつだったか。
駅の混雑した階段の終わりに、人だかりが。
そこには頭から血を出した老人が横たわっていた。
意識はないらしい。
ヒトデのように手足を投げ出し、動く気配のない老人。
その鮮明な血の赤に、私は心奪われた。
老いているのに、地味な衣服からは信じられないほどの
美しい色を内に持っている。
この人は死ぬかもしれない。
それと引き替えに、生き血をさらしながら、多くの人を今、
釘付けにしている老人。
その老人の足は、どちら側が空を切ったのだろうか。
私の右足は、いつも生と死の境界線を、教えてくれる。
今というあやうさを思い知る。
その狭間で、やはり私は楽園を出現させる作業を続けるだろう。
今の私を支えてくれる、この左足がある限り。
舎長 明神慈