2002年10月06日
この夏は引っ越しをしたので、春、定例の朝顔棚は作らなかった。
庭の銀杏や梅の木は友人の家にもらわれていった。
鉢植えの植物たちは新しい住処を青々と取り巻いている。
真夏に、月下美人の鉢からひょろひょろと朝顔が双葉を出していた。
弱々しい茎。
去年収穫し忘れた種が、鉢に落ちたのだろう。
何色の花だろう。
抜かずにこの夏越せるか、見守ることにした。
インドネシアから帰ってきて、身体を休めていた台風の夜。
彼女は小さな蕾をふたつつけていた。
ごうごうと打ち付ける雨風。耳鳴りのように遠くで聴いていた浅い眠りの夜。
次の日の朝、心配で表に出てみた。
白い丸い花びらが浮かんでいる。
去年よりもずいぶんと小振りだけれど、繊細なドレスを広げている。
愛しさに、口づけていた。
すぐそこで、明日咲く蕾が、口づけられるのを待っている。
その日の夜半過ぎ、表へ出た。彼女に会いに。
ゆっくりと開き始めた二つ目の花にそっと口づけた。
花は咲くとき、人肌ほどの熱を発する。
全身全霊でその花の魂の色を開くときだから。
長く暮らしたあの部屋の庭でも、こぼれ落ちた小さな命たちが
夏に向かって螺旋を描いていたのかもしれない。
知らない誰かの目を楽しませたのかもしれない。