Heaven from 3cm above
2005年10月16日
命の行方

夜。
バスを降り、買い物をしてM通りを横切ったときのこと。

信号まで歩くと遠回りになるので
多くの人が危険を冒して四車線を横切ってゆく。
赤信号の間、わずかな時間に生まれる真空地帯。
私は買い物袋を右手に、道の真ん中にさしかかっていた。
私の前にも横切る女性がいた。

右目の端にかすかに黒い物体が映った。
夜にまぎれてしまいそうな何か。
向こうの信号が青になった。
いっせいに東西からエンジン音が唸り始めた。
私は走っていた。冷静だった。
その黒い物体をむんずと左手で掴み、向こう岸へと渡りきった。

黒猫だった。

即死。・・・温かかった。

「かわいそうに」そう何度も呟きながら、植え込みの傍に黒猫を横たわらせた。
前を歩いていた女性は、私よりも前に黒猫に気づいていたらしく
立ちすくみ、「す、すみませんすみません」と詫びている。
「あ、あたしここのマンションに住んでるんです。
 あの、うちで手、洗いますか?」
何かを埋めようと必死な彼女。
「大丈夫です。近いので。ありがとうございます。」
私は家路へと歩き出した。

右手には買い物袋。
左手には黒猫の生温かい感触。

生きていた。黒猫はついさっきまで。

今頃になって、左手が震えてきた。
二倍に膨らんでしまいそうなくらいに脈打つ左手。

野良猫だろうか。地域猫だろうか。
飼い主がいるなら、探しに来るだろう。


震えながら、歩きながら、覚醒してゆく夜。


「命の行方」を見届ける 目を背けずに
いくつもの際を渡ってゆく この足で
この手で命の入れ物を運んでゆく せめて この手で


舎長 明神慈