Heaven from 3cm above
2006年10月29日
「國文學」2002年2月号

「國文學」2002年2月号
特集「演劇・ダンス・映画─時代を疾走する」
いま元気のある劇団20~“ポスト静かな演劇”を中心に~堤広志著


「ポかリン記憶舎」を主宰する明神慈は、人間の精神の所在を神秘的に捉えている。常に生や死、植物状態で意識の回復しない患者、眠り、夢といったモチーフを登場させ、肉体を超越した形而上的な視座から、彼岸と此岸に分かたれた人間たちの懊悩を浄化する。『回遊魚』(00年)では、失踪した女性の魂が、水族館に回遊する魚の体を借りて現われ、現世に残されたまま生き続けなければならない恋人の青年と対話する。その劇構造は夢幻能の形式に近いが、報われぬ情念が死後に持ち越される能とは異なり、ここでは異界の存在が、現世に残された青年の未練と苦悩を解消し、カタルシスをもたらす媒介となっている。『ピン・ポン』(98年)では、さらに何処とも知れぬ時空間に、相寄る恋人たちの魂が輪廻転生を繰り返しながら邂逅し逢瀬を続けるといった二人芝居となっており、こうした極度に象徴化した表現は、若い世代だけでなく、現在の演劇界を広く見渡しても、稀少な存在と言えるだろう。